モバード(MOVADO)1881年、当時19歳であったアシール・ディーテシャイム(Achilles Ditesheim)がスイス ラ・ショード・フォンで6人の職人を雇い時計製造会社を創業。後に社名を「MOVADO」と変更。腕に添うように歪曲した「ポリプラン」、アール・デコデザインの革新的な「エルメト」、そして文字盤にゴールドドットだけを配した「ミュージアム」など、社名の由縁である「たゆまぬ前身」を象徴するように、革新的なデザインの時計を排出し続ける。またゼニスの代名詞となっている有名な「エル・プリメロ」を共同開発したことでも知られ、ゼニス・モバードとダブルネームの「エル・プリメロ」モデルも存在する。当時斬新で革新的なデザインを持った時計をご紹介します。この時計は、古時計クラブメンバーの所有する時計で修理依頼を頂きましたものです。デザインもさることながら変わった機構も持っておりますのでお話しさせて頂きたいと思います。ヴィンテージ時計がお好きな方であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。他メーカーでも同じような形状のものがありますが、こちらが元祖で他のものとは一際違っています。この時計は、MOVADO「ERMETO(エルメト)」というモデルになります。このエルメトには、いくつかのモデルがあるようです。Ermeto Pullman(大型のエルメト)Baby Ermeto(小型のエルメト)Ermetophon(アラーム付きのエルメト)Ermeto Calendine(デイト付きのエルメト)Ermetoscope(デイト付きのエルメト)Calendermeto(トリプルカレンダー・ムーンフェイズ付きのエルメト)ご紹介する時計は、6番目の「Calendermeto」というモデルのようです。今回、ケースを閉じた状態での撮影をし忘れてしまいまして、開いた状態だけの写真しかご紹介できないことをご容赦ください。このモデルは、トリプルカレンダーにムーンフェイズが搭載されたエルメトの高級モデルとなります。このエルメトの革新的な部分は、ケース形状だけではございません。実は、このケース、元々は閉じた状態でコロンとしたアクセサリーのようなものなんですが、時刻を見る際にサイドを両手でそれぞれつまみ、開閉して時刻を見るというスタイルで活用します。その行為自体が、ゼンマイの巻き上げに繋がっているという革新的な機構を持っています。ケースを開く度にゼンマイが巻き上げられるというわけです。4回ほど開閉するだけで1日稼働するのですが、よく考えられた機構です。以前に、ジョン・ハーウッドの「AUTORIST」をご紹介しましたが、よく似た感じでオートリストもラグの動きでゼンマイの巻き上げをする機構でした。こちらは時刻を見る行為で巻き上げるという機構、こちらの方がより自然でスマートな機構と言えます。このモデルの売りは、スポーツでも使えるという堅牢であるという触れ込みでしたので流石にしっかりとしたケースになっております。もちろん形状から見ましてもトラベルウォッチと感じると思います。その通りで、裏側にはスタンドが付いており、引き出すことで立てておくことも可能で、よく考えられてあります。実は、このエルメトには誕生秘話があります。それは、若き彫刻家 Fritz Huguenin(フリッツ・ユグナン)とその弟 Guillocheur Albert(ギヨシェール・アルベール)によって、1868年スイス ル・ロックルで創業された時計ケースメーカー『Huguenin Frères & Cie(ユグナン・フレール社)』なしには語れません。ユグナン・フレール社は、彫刻家であった特質を活かしメダルのエンボス加工を行っていたそうで、その彫刻技術を活かしたニエル象嵌のケースを得意としてかなりのメーカーのケースを製造していました。ニエル象嵌ケースの蓋裏に「NIEL HF」と刻印されたものをご存知ないでしょうか。タバンなどニエル象嵌ケースで目にすると思います。実は、この「HF」こそ「Huguenin Frères & Cie」の略で、ユグナン・フレール社のことなんです。このニエル象嵌ケースを得意としたユグナン・フレール社は、コイン型ケースなど斬新なケースを様々開発していきました。そして、今回のこのエルメトのスライドケースを開発したんです。1926年にスライド式機構を持ったケースの特許も取得しています。ユグナン・フレール社は、すぐさまその革新的なスライドケースを様々な時計メーカーへ売り込みに行きましたが断れられてしまいます。それはそうかもしれません。1926年というと日本では大正時代ですので懐中時計がまだまだ主流でしたが、海外では腕時計の時代になっています。各メーカー腕時計の開発に躍起になっていた時代に、腕に巻けない懐中時計のようなスタイルのケースには否定的だったと思います。彼らの落胆振りが窺えます。しかし、モバードだけは違っていました。今までなかった革新的デザインに可能性を見出し採用したんです。エレガントで独創的なケースの中に隠された懐中時計「ERMETO」の誕生です。実は、初期モデルにはこのゼンマイ巻上げの機構は備わっていなかったようで、1年後に巻上げ機構が搭載されたようです。1年後という期間を考えると、スライドケースという形状やスタイルに対する市場調査もかねて初期販売を行っていたのかもしれません。様々な準備やマーケティングを行い、満を持して1年後に完成させたエルメトをリリースしたんでしょうね。これらはエルメトの広告です。エルメトは、革新的デザインであったことからどのように扱うかを見せている広告になっていますね。これらはエルメトの堅牢性を謳った広告です。懐中時計はガラスが割れてしまっていますが、「エルメトは大丈夫」という感じのイメージを持たせています。このエルメト、フランスでは「エルメス」、アメリカでは「ティファニー」がOEMで販売していたほど話題性を生んだ時計だったんです。JPS仕上げムーブメント修理(不具合箇所の修理)オーバーホールケース問題箇所の修理ムーブメント洗浄仕上げ文字盤汚れ除去時針分針洗浄仕上げetc.の作業を行いました。元々、この時計は状態が良かったので大きな損傷のない状態でした。時刻が動かなかったなどの不具合箇所を修理して問題なく稼働するようになりました。この時計の作業を進めるには、まずはケースを外さないと行けません。ケースそれぞれにゼンマイを巻き上げるアームが付いているのでそれを外し、それぞれケースを取り除くことで時計自体を取り出すことができます。取り出すとこのように時計だけになります。裏蓋はスタンドが取り付けられてあるのでスタンド部分を取り外し分厚い裏蓋を外してある状態です。モバードらしい綺麗なムーブメントです。作業をさせて頂き仕上がった時計を見ていると、本当にしっかりとしたいい時計だなと思いました。腕時計をしなくなった方々の多い現代において、この時計はある意味新しいかもしれませんね。懐中時計とは違い、普段はケースにおさまっているので堅牢です。一見するとキーホルダーのようにも、何かの小物入れのようにも見えますし、エルメトは基本的にケースに革が巻かれていたり、エングレービングが入っていたり、漆仕上げがされていたりとデザイン的にも豊かです。時間を見る際に開けて確認したり、開けたままスタンドを出して立てておいたりと、この時計がそばにあるだけで優雅に感じますね。女性がカフェでこの時計を立てていたら格好良いでしょうね。男性が車のキーに取り付けて持っているのも格好良いでしょうね。現代では、このような時計に巡り合うことができませんが、昔にはこのような面白い時計がたくさんあります。昔だからといって良い加減に作られているわけではなく、案外今の時計よりしっかりと作られていたりするものなんです。その時計その時計に歴史があり、誕生秘話などもありますので、昔の時計ならではの楽しみ方ができます。それが思い入れに変わりかけがえの無い存在となってくれるはずです。そういう時計が1つあると本当に良いものですよ。その時計は、どんな高級な時計とも比べることができない唯一の存在になってくれますので。そんな時計を探していてはいかがでしょうか。▶︎コロン商会の「JPS仕上げを施した明治時代の商館時計」はこちら▶︎「LONGINES 二針 最小型 金鍍金 1967 腕時計」はこちら懐中時計のオーバーホールや腕時計、掛時計、鳩時計、置時計のことならJPSへご相談ください。