レッツ商会(F.retz&Co)創業者はドイツのフリードリヒ・ヴィルヘルム・レッツ(Friedrich Wilhelm Retz)。1872年(明治5年)10月に来日、横浜に拠点を置きスイス製時計を扱っていたシュワルツ&カンパニー(Schwartz & Co)で学び、2年後の1874年(明治7年)に同じ横浜で独立、スイス時計を扱う商館としてレッツ商会を設立。やがてシュワルツ&カンパニーの事業を引き継ぐことになり、拠点を横浜214番におき、神戸82番に神戸支店も開業。レッツ商会の商館時計は今でも多く中級品が現存することから長く販売されていたと思われる。レッツは1923年(大正12年)に病死、横浜外国人墓地に眠る。今回はお客様の商館時計のお話です。お客様からご承諾を頂きまして、記事にさせて頂いております。先日、お客様よりご相談がありました。整備済みの商館時計を購入されたのですがある日止まってしまったとのこと、原因は針が当たっていたようで大変落胆されたそうです。『落胆』…私にも経験があります。時計が動かなくなるというのは本当にショックなものです。私は「古い時計修理します」という貼り紙のある町の小さな時計店にトラスティの商館時計を持ち込みました。古い掛け時計などが壁にいくつかかけられてある店内にショーケースがあり、その横には作業台もあり、そこに年配のベテランといった感じの店主さんがいらっしゃいまいました。商館時計を手渡すと、手に取りムーブメントを見てすぐに仰いました。これは無理やわ。できへん。その時の衝撃というのは今でも覚えています。私の中で、時計屋さんは何でも治してもらえると当時思っていたのでショックでして、「古い時計修理します」という貼り紙あるのに…と本当に落胆したものです。今覚えば、「古い時計修理します」というのは古い置時計や掛け時計のことを指していたのでしょうね。懐中時計をするのであれば昭和初めのものまでといった感じだったんだと思います。基本的には、部品が手に入るヴィンテージ腕時計が主流ということだったのでしょう。当時は落胆しましたが、そのご主人がなぜ断ったのか理由が今ではわかります。今回のお客様も動かなくなった商館時計を目にして同じように落胆なされたと思います。たくさんある中、JPSを選んでくださって本当に光栄なことで嬉しい限りです。整備済みということでしたが、改めて修理に伴い分解掃除をすることとなり、同時にガラス交換、そしてムーブメントとケースの鏡面仕上げもお願いしたいとのことでした。商館時計が好きな私としては、商館時計を本当に好きになって頂きたいので『落胆したけど逆に良かった』と思って頂けるような仕上がりにしなくてはと力が入りました。修理価格はサイト上に記載しております通りで、基本料金にケース研磨・ムーブメント鏡面仕上げ、そしてガラス交換ということでお話をしまして了承頂きました。▶︎「JPS仕上げ お客様依頼の小型のコロン商会 舞鶴印 高級仕様 商館時計」今回の状態は、針当たりによる不動、基本的に稼動する状態であることはわかりました。ムーブメントを拝見すると一見綺麗にされてあるように見えているのですが、元々表面上艶があり綺麗な状態だったと思われ、シャトン、天輪などを拝見しているときっちりとした洗浄ができていないような状態でした。ムーブメントがそうですので、ケースも同様、環の根本や鍔の際、リューズ、ケースの蝶番、ローレット部、魚子模様など強い黒ずみがありましたので、きっちりとした研磨がされていないことが判断できました。お預かりした商館時計を見ておりますと、お客様を喜ばせたいという思いが湧き上がり、気がついたらばらし始めていました。JPS仕上げムーブメント修理(不具合箇所の修理)オーバーホールケース研磨洗浄鏡面JPS仕上げムーブメント洗浄鏡面仕上げ輪列洗浄光沢仕上げ文字盤洗浄仕上げ時針分針秒針洗浄光沢仕上げetc.など諸々の作業を行いました。今回のレッツ商会のムーブメントですが、普段と違う点が1つありました。それは金鍍金が施されたムーブメントであるという点です。初期の鍵巻きなどでは毛彫のある金鍍金されてあるものをよく目にすると思いますが、今回のものはその時代よりも新しく明治30年頃のもの、商館時計ならではの通常よく目にすることができるムーブメント形状です。本来、経年で手が入り金鍍金が削れていたり傷んでいたりとするものですが、今回の時計は綺麗に残っており金鍍金の状態の良いものでした。初めお写真を拝見させて頂いた際には、酸化して黄色くなっているものと思っておりましたが、そうではなかったんです。実際に、酸化して黄色くなったものや、ニッケルメッキが削れて黄色くなったものなどがありますので、どのタイプなのか心配をしておりました。前者と後者では全く変わってくるからです。ですがどちらでもなく嬉しい誤算で、仕上げをしていくのが楽しいムーブメントでした。ムーブメント受けのシャトンなど全て外して仕上げていくのですが、時間をかけ丁寧にじっくりと行っていきます。ムーブメントの受けには、一部にダマスキン加工という艶消しの模様が白く見えるように入っています。その加工を消すわけにはいかないので、気をつけながら艶を出していきます。ダマスキン部分以外の表面の加工が荒い箇所なども当然ながらあります。また、角が荒く面取られてあるのでその部分も光沢を出していく作業なども行なっていきます。いつも仕上がってから組んでいくのを楽しみにひたすら黙々と地道な作業を行なっています。仕上がったムーブメントを組み上げていくのは本当に気持ちよく、今回も同様に綺麗に仕上がりました。反射しないようなセッティングなので仕方ないのですが、写真でこの艶感をお伝えするのが難しく、どうしても反射が抑えられてしまいます。実物はキラキラと光り輝いております。2番車から3番車に向けて受けをご覧頂くと光沢があるのがわかるかと思います。ダマスキン加工の艶消し部分以外はこのように光り輝くムーブメントになりました。品のある落ち着いたゴールドで、本当に綺麗なムーブメントに仕上がったと思います。今回も同様でケース研磨など4工程の研磨を施して、一生懸命にJPS仕上げもさせて頂きましたので、130年前の時計とは全く思えないと思います。新品のように甦らせることができました。ケースの美しさなど写真をご覧になって頂ければお分かり頂けるかと思います。新品同様に甦りました。ここまで綺麗な商館時計をお持ちの方はまずいらっしゃらないので自慢の商館時計になると思います。私もいつも愛用しているコロン商会の商館時計を持ち歩くのですが、本当に名刺がわりになっております。140年前の明治の時計ですよとお話しすると皆さん驚かれます。是非ともお客様にも驚かれる皆さんを見て体験して頂きたいです。▶︎「愛用している特別な仕上げを施したコロン商会 商館時計」商館時計は、銀無垢ケースですので、経年で黒ずんで汚くなっていたとしてもそれは酸化のよるもの、丁寧に仕上げてあげれば新品のように綺麗になります。そして、琺瑯文字盤は汚れでくすんでいるだけですので、こちらも洗浄すると真っ白に。針もくすんでいるだけですので、くすみをとるだけで綺麗になります。これだけでも見た目は新品のように甦ります。いつまでも世代を超えて使い続けることができる商館時計ならではの楽しみ方といえます。商館時計を好きになって頂きたいので、お気軽にご相談頂ければと思います。最後に、仕上がった商館時計を手にされたお客様から頂戴しましたメールをご紹介させて頂きます。お世話になっております。商館時計の方、本日無事に受け取りさせて頂きました。実際に拝見し、写真以上の仕上がりで本当に凄いと思いました。感動モノです。ケースの磨き上げも息を呑む仕上がりで、ムーブメントも更に輝いていて流石としか言いようがありません。時間の方も開封したタイミングでズレもなく、しっかりした調整で本当に助かります。たくさん外に連れ出して大切に使用させて頂きます。そしてお手紙の方も丁寧にありがとうございます。ここまで丁寧にご対応頂ける所もあまりないので本当にありがたいです。また困った事がありましたら連絡するかと思いますが、その際はよろしくお願い致します。今回は本当にありがとうございました。喜んで頂けたようで本当に嬉しい限りです。この仕事をしていて良かったと心から思える瞬間で、私にとってこの上ない喜びです。大切な時計に携わらせて頂き感謝しかございません。▶︎「どうしても甦らせたい」時計店で断られたレッツ商会の商館時計時計店で断られてしまった時計でも諦めずにお気軽にご相談ください。掛け時計、置き時計、懐中時計、腕時計、どんな時計でも大歓迎です。▶︎商館時計に漂う明治時代の魅力商館時計などの100年以上経過した時計を本来の姿に甦らせてみませんか。誠心誠意ご対応させていただきます。