レッツ商会(F.retz&Co)横浜居留地二百十四番、神戸居留地八二番を拠点としたドイツ商館。ドイツ商館であるもののスイス製ムーブメントの商館時計が見受けられる。清水次郎長が愛用していたとも言われている。レッツ商会の商館時計は今でも多く見つかっていることから多く販売していたと考えられている。お客様よりご相談のメールがありました。縁あってレッツ商会の商館時計を所有することになったそうですが、不動であったことからお近くの時計店に持ち込まれたそうです。例の如くと申しますか…時計店の方から…「部品が一部ない事や古い機構の為修理が出来ない」と言われてしまったそうで…JPSにご相談がありました。もちろん、状態によりけりだとは思いますが、可能であることをお伝えさせて頂きましたところ、修理と同時に外装に変色や錆があるので研磨もして欲しいとのご依頼でした。▶︎「JPS仕上げ お客様依頼の小型のコロン商会 舞鶴印 高級仕様 商館時計」商館時計ならではと申しますか、銀の輝きがある程度あるもののご覧の通りの状況で、お客様の仰られますようにかなりの酸化状態であることがわかります。ここまでの酸化があると銀磨きのクロスなどでは落とすことはできません。時計自体はシリンダー脱進機と言われる古い機構のもので不動の状態、時計店の方が仰られていた「古い機構…」というのはこのことと思われます。確かに致命的な痛みがある場合などは厄介ではありますので躊躇されたのでしょうね。「部品の一部ない…」という件に関しては、そのようなことはございませんでした。恐らく、130年前の古い時計でもありますし、お断りするための言葉としてお使いになられたものと思われます。実際に、ヴィンテージ腕時計などでは今でも部品が残っていたりしますし、規格として工場生産されていたものですので、基本的には同型部品であれば手に入れれば主要部品の交換で修理ができてしまいます。しかしながら、商館時計の場合、手作りで作られていたような時代なので、部品を交換すれば可能…とはなかなかいきません。であるからこそ、古い時計は断られることが多くなってしまいます。また130年も前の時計ですので、何が隠れているかもわからないですし、修理の際に部品の破損が起こることだってあり得ます。要するに古い時計というのは「リスク」が常に付き纏ってしまいます。部品交換の修理を主に行なっている時計店では避けられるのは至極当然のことと理解はできますが、できるならお客様の思いを尊重して取り掛かって頂きたいのと、できるなら「部品がない」ということは決して言って欲しくはないです。お客様にとって時計店の言う言葉が全てになります。それでがっかりもしますし、部品がないなら無理かもと諦めてしまうことになってしまうので…実は、私にもその経験がありまして、時計を全く触れなかった時のこと商館時計をある時計店に持ち込み修理を依頼しました。もちろんできるものと思っていたのですが、店主の言葉は違っていました。できないと言われてしまったんです。その時のがっかりした気持ちは今でも忘れられません。そんな経験もあって今の自分があるのですが、やはりその時はすごいショックで、絶望的な思いでした。ただ一店舗の言葉ななんですが、お客様にとっては時計店の言葉は全てなんです。そのことを時計店の方は案外軽視してしまっているのではと、お客様の相談をお聞きしていると感じることが多くなってきました。この時計も時計店でそう言われ、お客様のショックは相当なものだったのでは…時計の写真しか拝見していませんでしたが、何とか修理をして綺麗にしてあげたいという思いを強く感じましたもので是非とも拝見させて頂きたいとお伝えさせて頂きました。実際に商館時計が届き確認しますと、色々と手の入った時計であることがパッと見で理解できました。気になる箇所があったのですが、何とか甦らせてあげたいという思いから快くお受けさせて頂きまして、修理を進めさせて頂きました。JPS仕上げムーブメント修理(不具合箇所の修理)オーバーホールケース研磨洗浄鏡面仕上げムーブメント洗浄鏡面仕上げ輪列洗浄鏡面仕上げ文字盤洗浄仕上げ時針分針秒針洗浄光沢仕上げムーブメント固定ビス研磨仕上げetc.など諸々の作業を行いました。時計店で断られ、お困りだった中で、諦めずにこのサイトを見つけてくださり、ご連絡をしてくださった思いに感謝をしまして誠心誠意取り掛からせて頂きました。外装に大きな凹みもなく、魚子模様も残っているので研磨をすることで大変綺麗な輝きに蘇りました。昨今では時計師が白衣を着用している姿をよく目にしますので、量販店での時計店でバンド交換をするだけの方であっても、白衣を着用されている方を見るとすごい方に見えてしまいます。白衣効果はすごいものですね。我々のような仕事をしておりますと研磨で飛び散り汚れることが日常であることから白衣は着用できないので。シリンダー脱進機という機構のムーブメントです。アンクルがなく、ガンギ車が直接天真部分にあるシリンダーに回転を伝える機構となっております。この時代の古い時計によくある機構です。当然ながら初期の古い機構ですので、日本では製造されなかった機構です。前回作業をされた時計師さんは、どうも修理をすることができずに断念されたと思われ悪戦苦闘された箇所が数箇所ございました。時計と対話をしながら進めていくのですが、これまでの時計師ともやり取りができるのも古い時計を修理する醍醐味でもありますね。それぞれの歯車も本来のオレンジ色の美しい輝きを取り戻しております。裏蓋裏には、800銀のホールマークの他に「蝶に矢」のレッツ商会の商標が刻印されてあり、下には「レッツ商會」と刻まれてあります。明治時代の商館時計ならではのカタカナ日本語表記の刻印、今では英語表記の刻印しか見ることができないので、ある意味新鮮に感じますね。お客様が気にされていた強い酸化や錆もなかったかのように磨き上げましたので、新品のような輝きに甦っております。このように新旧並べててみますと放浪文字盤の色も変わっていることがわかると思います。綺麗に仕上がった商館時計を見ると、本当に上品で美しい時計だといつも感じさせられます。この洗練された色褪せることのないデザイン、130年も前の時計とは信じられません。今の時計ではまずお目にかかることのない姿をしております。1時位置にあるダボ押しの時刻合わせも商館時計ならではなのですが、このダボ押しという機構の時刻合わせは、実に便利で大変使い勝手のいいものです。リューズを引き上げることなく、ダボを爪で押さえながらリューズを回し時刻合わせを行うのですが、リューズを引き上げるための機構が必要ないので部品に負担をかけることもないので経年劣化により壊れる心配もなく、壊れない時計を作っていた時代の本当に理にかなった機構だと思います。商館時計の良いものにはリューズ引きのものも少ないですが実際にあります。しかし、ダボ式のものはダボ部分がデザインのアクセントとなって、逆に美しいとすら感じてしまいます。▶︎「愛用している特別な仕上げを施したコロン商会 商館時計」最後に、お客様のご感想をご紹介させていただきます。大変お世話になっております。今朝、無事に届きました。ありがとうございます。見違えるように輝いて生き生きと動く様子を確認しました。大変嬉しく思っております。また、丁寧なお手紙まで頂き、改めて修理を依頼させて頂き良かったと感謝申し上げます。大切にさせて頂きます。このようなお言葉を頂戴しますと本当に励みになりますね。時計修理の仕事をしていて本当に良かったと実感できますし、仕事に誇りを持てますし、これからも頑張ろうという気持ちにさせて頂けます。余談ではありますが、先日お客様が遊びに来られたのですが、道中、四天王寺の骨董市へ寄られたようで、そこで購入したというエニカの自動巻の腕時計を持っていらっしゃいました。お店の方から1日に3時間ほど進むと言われたとのことで、実際に見せて頂き耳に当て音を確認したところ、ヒゲゼンマイがひっついているような音が感じられました。そのことをお伝えして時計談義を楽しんておりますと、仕事などで普段使いしようと思ってらっしゃるとのこと、せっかくなので使えるようにしてあげたいと思い、少し見てみましょうかと拝見させ頂きました。裏蓋を開けてみるとやはりヒゲゼンマイがひっついている状況、お客様にご覧いただき、ヒゲゼンマイを元に戻し調整させて頂きました。改めてご覧いただき違いを見て頂きました。お客様は本当に喜んでくださいましてその作業に驚いていました。時計修理をするものからすると極々当たり前の簡単な作業なのですが、喜んでくださいますとやはり嬉しく、すごいことをしたように思わせてくださいます。ありがたいことです。その方は、90年代の金無垢ロレックスを本当に大切に愛用されており、傷ひとつなく使っておられます。バセロンやオーデマピゲ、コルムなど本当に良い時計を愛用されてらっしゃる方なのですが、今回のような骨董市で購入されたエニカを仕事で普段使いしようとされてらっしゃるお姿に本当に嬉しい気持ちになります。時計修理をするものとして、どんな時計でも気に入って愛されてらっしゃるお姿は本当に嬉しく、素晴らしいことだと感じます。時計は流行り廃りがあり、人気になればその時計ばかりが売れ、猫も杓子もその時計という現象が生まれます。今では、ロレックスやパテックのノーチラスなど、価格が高騰しるものもあり、金融商品に成り下がってしまい、そのような時勢から時計はもはや今では投棄対象です。換金対象でしか見られていないというのは、我々的には本当に悲しいことです。その方々にとって、その時計の金融価値がなくなれば、その時計はその方々にとって必要なくなるわけで…。時計離れが進む現代において、業界としてもこの現象は先々良くないのではと未来を危惧してしまいます。時計が本当にかわいそうに感じてしまいます。これも世の習いで致し方のないことなのでしょうね。時計店で断られてしまった時計でも諦めずにお気軽にご相談ください。掛け時計、置き時計、懐中時計、腕時計、どんな時計でも大歓迎です。▶︎商館時計に漂う明治時代の魅力商館時計などの100年以上経過した時計を本来の姿に甦らせてみませんか。誠心誠意ご対応させていただきます。